奈良県西和医療センター総長の斎藤能彦です。奈良県西和医療センターは研修指定病院ですが、その良さは、毎年春になれば、2年間研修した先生が巣立って行く、そして若い研修医の先生が入って来られる、ということです。若い先生が毎年来られることが、どれほど病院を活性化していることでしょう!皆様、ようこそ奈良県西和医療センターでの研修を決心して下さいました。心より御礼申し上げます。
さて、奈良県立病院機構の理念は、「“医の心と技”を最高レベルに磨き、県民の健康を生涯にわたって支え続けます」です。“医の心と技”は、両方とも同等に重要です。皆様が医師を志した時、そして、医師として働き始めた時にも、患者さんのために働きたい、病める人に寄り添いたい、患者さんを断るなんてあり得ない、と自然に思っていたはずです。それこそまさに”医の心”です。ところが、医師になり時間が経過するとともに、また、ぞんざいな医師の中で働いていると、その医の心を忘れてしまうことがあるのです。奈良県西和医療センターの理念は、「患者さんを家族のように愛する」ですが、このような環境に身をおくことによって、知らず知らずのうちに“医の心”が体に染み付き、患者さんから信頼される医師に育って行くのです。三つ子の魂百までです。
もう一つの“医の技”を最高レベルに磨くことも極めて重要です。”医の技”を最高レベルに到達させることは一朝一夕には不可能です。しかし、奈良県西和医療センターでは、最高レベルの“医の技”を持っている先輩医師がたくさん在籍しております。彼らの“医の技”を間近に見て、体得してください。
人が人間として成長していく上で、読書は大変重要なものです。読書に多読と精読があるように、医師として成長する為にも、多くの症例に接することと、症例を深く科学することの両方が必須です。若い時に触れたことのなかった疾病は、上手に対処することが困難なものです。若い時は、貪欲に多くの症例に触れることが重要です。しかし、ただ多くの症例に触れるだけでは、医師としての科学的な素養を醸成することは困難です。時には、症例を深く掘り下げることが必要です。その分野の最新知識を勉強し、目の前の症例に還元すること、そしてそれを、学会で発表し文字として残すことが重要です。このような精読を、全ての症例で実践することは時間的に不可能ですが、時には大事なことです。
もう一点、2024年から実施される「医師の働き方改革」が実施されますが、この新しい制度の中でも有意義で実りある研修期間を過ごして欲しいと思います。英語で研修医のことをレジデントと言いますが、レジデントとは、住民の意味です。昔は、病院に住んでいる人ということで、研修医がレジデントと呼ばれていたのです。現代では、このような考えは成り立ちませんが、逆に先生方自身の、心構えがより重要になります。1日はどのような人にも24時間です。この24時間をどの様に使うか?で将来が決まります。勤務時間を上手に有効に使い、さらに、残りの時間の使い方をご自身でよく考え、2度と戻らない研修期間を有意義に過ごして下さい。最後に私の師である井村裕夫先生から教えていただいた、エマーソンの詩の一節「目標ある人生に幸いあれ!」を贈ります。
奈良県西和医療センター 総長
斎藤 能彦