研修プログラム責任者 森本 勝彦(腎臓内科部長)

奈良県西和医療センター臨床研修プログラム責任者の森本勝彦です。当院臨床研修のホームページをご覧いただき、誠にありがとうございます。
奈良県西和医療センターの臨床研修では、日進月歩で変化する臨床現場の最前線で適切な医療技術と知識を身につけるのみならず、患者さんに提供する医療への責任感と思いやりの心を育てることを大切にし、医療者としてのプロフェッショナリズムを生涯にわたり研鑽する医師を育てることを目標としています。

1)研修医ひとりひとりの希望に合わせたプログラム作成

当センターでは、common diseasesや救急診療などの地域に密着した基本診療から先端医療まで幅広い研修を用意しています。初期研修1年次では24週間以上の内科研修に加え、外来診療研修、麻酔科を含めた救急医療研修、さらに一般外科や小児科、産婦人科などの必修診療科を研修します。これら必修診療科の研修ローテーションは予め決められたプログラムを履修するのではなく、研修医全員で相談しローテーションを決定します。この時期は、医療現場で患者さんの支えになるための『医療技術と医師としての心構え』を形成する期間であると同時に、ひとりの社会人として大きく成長する期間でもあります。上級医・指導医だけでなく、看護師や技師、薬剤師、医療事務の方々などすべてのスタッフから、医療業務・医療技術の指導と社会人としての教育を受けていただきます。

2年次の研修プログラムでは、精神科や地域医療研修など残りの必修診療科を修了するとともに、各研修医の自主性を尊重し、将来を見据えた研修プログラムを自由に計画していただきます。当院の様々な診療科だけでなく、「奈良県総合医療センター」「奈良県立医科大学附属病院」「国保中央病院」「大阪暁明館病院」のすべての診療科および「信貴山病院精神科」「上野病院精神科」「奈良県郡山保健所」から、一定の期間自由に選択することが可能です。また、地域医療研修では、へき地医療を学ぶことができる「南奈良総合医療センター」、地域医療と総合診療教育で有名な北和也先生の「やわらぎクリニック」、回復期医療を学ぶことができる「奈良県総合リハビリテーションセンター」、および神奈川県で地域医療プログラムに定評のある、地域巡回診療を行う「三浦市立病院」(三浦半島の最南端にある漁業の町)から選択することができます。2年次のプログラムは、1年次終了時点で調整し、適宜希望に合わせて追加調整しますので、臨床研修医支援室でプログラム責任者や指導医と話し合って、各人の将来に合わせた研修を行うことができます。

そのほか、2年間の研修において、様々な資格の取得や、各種医学会への参加・発表、論文作成発表も積極的に行っていただきます。こうした研修活動はすべてポートフォリオとして記録に残し、研修医がいつでも閲覧できるよう保管しています。

2)豊富な症例数の経験と様々な日常臨床基本手技の習得が可能

当センターでは、幅広い経験を積むことができるように救急・総合診療能力を身につける研修を行っており、症候から診断に至るまでの論理的な思考過程をたどる臨床推論能力をつけることを重要視しています。初診外来での診療やwalk-inの救急症例の診療だけでなく、年間約4000台の救急車搬送(二次救急)への初期対応を行い(研修医ひとりあたり年間500~600症例、2020~2022年度実績に基づくデータ)、そのすべてに上級医の指導を受けます。当直では、内科系、外科系、小児科当直の指導医のもと、救急外来に来院されるすべての患者さんの診療に当たります。圧倒的な数の救急疾患を経験することで、重症例の初療や、病棟での急変時にも適切に対応できる技量を身につけることができます。

また、上級医の丁寧な指導とフィードバックのもと、様々な診療基本手技を施行することができます。麻酔科での研修においては、研修医1人あたり50~100例の気管挿管を含めた麻酔導入症例を指導医立会いのもとに経験します。診療手技の経験数は研修病院としては圧倒的に多く、どのような患者さんにも対応できる技術を身につけることができます。

3)日々の学習を深めるための教育体制

研修医は2年間を通して、ほぼ毎日、勤務時間内に全体学習の時間をとっています。どの診療科で研修を受けていても、夕方には研修医室に戻って勉強します。研修医の一週間は、月曜日朝の、研修医による『研修医のためのモーニングカンファレンス』からスタートします。救急やプライマリケア診療にとても重要なTIPSを、上級医の監修のもと、研修医が同僚研修医に向けてプレゼンテーションします。カンファレンスには、研修医だけでなく専攻医や指導医、診療部長も加わることがあります。発表する研修医にとっては、担当するテーマについて勉強して、さらに同僚や先輩医師に向けて発表するため、知識の習得だけでなくプレゼンテーション能力や司会進行といったファシリテーション能力を身につけ、成人教育法を体験し、インプット・アウトプット力の向上にもつながっています。

各診療科が研修医に対して行う勉強会には、消化器内科の『消化器疾患スキルアップセミナー』、放射線科の『画像の読影トレーニング講座』、循環器内科の『心電図判読トレーニング講座』を全研修医向けに定期開催しています。腎臓内科ではACP(米国内科学会)が発刊する問題集MKSAPを用い、臨床英語学習を兼ねた勉強会を行っています。感染症内科が主催する『感染症ケースカンファレンス』では感染症疾患の基本的な考え方、抗菌薬の使用法の考え方を学びます。一週間の締めは、中村孝人副院長が主催する『総合診療カンファレンス』です。豊富な総合診療の経験や多数の論文によるエビデンスを用い、症例を丁寧に省察することで臨床推論能力を高めます。

また、臨床研修で著名な医師を外部講師として定期的に招聘し、研修医向けの教育講座(多くはカンファレンス方式)を開いています。例えば、年4回当院と奈良県総合医療センターで共催する洛和会京都医学教育センターの酒見英太先生(NHK総合診療医ドクターGの元祖)による総合診療ケースカンファレンスでは、症状や身体所見から診断に至る臨床推論の考え方を磨きます。そのほか、NSTやICTラウンドといった多職種連携プログラムや、小児虐待対応プログラムBEAMS、生理機能検査技師によるエコーハンズオン実習、病院全体のイベントである死亡症例検討会や、病理医とともにカンファレンスを行う病理解剖検討会(CPC)も定期的に開催し、診療能力の向上と明日の医療の発展につなげています。これらの全体学習を通して、2年間、どのような診療科を選択しても、しっかりした臨床的思考が身につくように研修プログラムを作成しています。

こうしたプログラムは、年に1-2回ほど研修医にアンケートを取り、研修医のニーズに合わせてよりよい教育体制になるように改訂を行います。不評なプログラムに対して改善の見込みがない場合は中止したり、目的に合ったプログラムを研修医とともに創造することで、日々新しい研修に進化するよう取り組んでいます。そして指導医も教育能力を高め、最適な教育を研修医に提供できるように、病院全体としてFaculty Development活動にも力を入れています。

4)充実した基本手技のシミュレーショントレーニング

日常診療基本手技の習得は、診療現場だけで身につけるわけではありません。繊細な手技を確実に習得し患者さんに安心して施行するためには、指導医の手技を繰り返して観察することと、事前のシミュレーション訓練が重要です。当院では臨床研修トレーニング室でシミュレータを使用した気管挿管、中心静脈カテーテルの挿入、腰椎穿刺などの訓練を行い、指導医の手技を繰り返し見学したのちに、指導医の補助のもとで手技を行います。研修医数に対して日常基本手技の経験回数が圧倒的に多い現場ですので、2年間でほとんどの手技を自信持って習得することができます。

さらに、毎年7月に行う、神奈川県で行われるクリニカルシミュレーション夏合宿では、様々な場面での診断・処置・治療の進め方やチーム医療を体験学習し、基本手技のシミュレーション学習に加え、日本救急医学会認定ICLSコースによる心肺蘇生法の習得や、普段は経験困難な外科的気道確保(輪状甲状靱帯切開)など特殊手技の実習も行います。3日間の合宿では技術習得だけでなく参加者同士が大変仲良くなりますので、病院内でお互いの顔の見える、風通しの良い関係性をつくることができます。

5)医のプロフェッショナリズムを生涯にわたり研鑽し続ける医師を育てる

当センター臨床研修の最大の目標は、医師としてのプロフェッショナリズムを生涯にわたり研鑽し続ける志を研修医に宿していただくことです。昨今の医療現場は、高齢化社会による医療受給の不一致、高度な情報化社会における医療トラブル、新型コロナウイルス感染症流行時に経験した献身的姿勢と人材不足、医師の働き方改革とそれに伴うジレンマ、医師の燃え尽き症候群など、研修医にとっても生涯を通して深く考察しなければならない問題がたくさんあります。そしてこの激動の時代においても、医師は高い倫理性と利他の心を保ち続ける必要があります。

当センターでは、研修現場において発生しうる様々なトラブルケースや倫理問題について研修医とディスカッションすることで、少しでも医のプロフェッショナリズムについて考える機会を持ち、コミュニケーション能力やレジリエンスの向上、職業倫理性の理解を深めるように取り組んでおります。これらは一朝一夕に身につけることはできないため、研修医のみなさんとともに、生涯をかけて探求していきたいと考えています(研修修了後も一緒に勉強し続けましょう!よろしくお願いいたします)。

6)専門医を目指す3年目以降の進路について

進路希望が決まっていれば、その希望に沿うように全力でサポートします。進路が決まらない場合や迷っている場合には、どこでどのような専門研修を行うことができるか、日本全国を視野に入れて相談に応じます。各大学の医局に所属する従来の方法以外に、奈良県立病院機構に残って専攻医(専門医コース)としての採用も可能です。

また初期研修に関与した各種事務手続き(専門医申請書類など)が必要となった場合も、研修終了後何年経過していても全面的に協力します。研修を修了した先輩医師には、行政機関での勤務や海外の大学院に入学された方もおられます。医師としてどのような将来を志すとしても初期臨床研修からスムーズに移行できるように、様々なキャリアプランの相談に応じます。

7)まとめ

奈良県西和医療センターは、地域密着型の基幹病院(地域医療支援病院)であり、プライマリケアから重症救急医療まで様々な症例を経験できる診療体制をとっています。当センターでの研修の特徴は以下の通りです。

1. 多彩な全体学習でのInputと豊富な症例経験によるOutputを繰り返し行い、医療技術や医学知識を適切に身につけることができる。 2. 医療技術や知識の習得だけでなく、コミュニケーション能力や臨床倫理、不測の事態にも対応できるレジリエンス・コンセプチュアルスキルを日々学び続け、医師としてのプロフェッショナリズムを生涯にわたり研鑽する医師を育てる。 3. プログラムを研修医と共に日々アップデートし、様々なニーズに合わせて最適かつ安心、信頼できる研修を創り続ける。

これを読んでいただいているみなさまが、奈良県西和医療センターでの研修を希望され、私たちと一緒に仕事をし、臨床現場で共に切磋琢磨する日々を心から待ち望んでいます。そして新研修医となったみなさまが、しっかりした臨床的思考のもと、思いやりの心と、人の命に対する責任感を持って目の前の患者さんのために全力をつくすことができる、魅力ある医師に成長するように、私たちが全力でサポートします。

奈良県西和医療センター
研修プログラム責任者
森本 勝彦